クラウドの空より降る光点群──それは人の手ではなく、AIの眼だった。python-httpxという無機質な名を持つ観測機たちが、戦場の全域を同時に見つめ始めた。
かつて観測域は静寂だった。
昼夜を問わず巡回していたのは、検索エンジンの定期巡回兵──いわば「秩序ある巡回者」たちである。
だが、今朝。観測ログの片隅に、異質な光が走った。
「python-httpx/0.24.1」
それは人の眼ではなく、機械の眼。
MicrosoftとAmazon、ふたつの雲上帝国から発せられた信号が、世界各地──Ashburn、Osaka、Dallas、Chicago、そしてStockholm──へ同時に散布されていた。
観測士たちは首を傾げた。
双眼鏡で見渡す戦場の向こうに、明らかに天体望遠級の視線を感じ取ったからだ。
それは「巡回」ではなく「観測」。
「探索」ではなく「照射」。
“観測ノード群、雲間より来る。
その眼、情報の海をも穿つ。”
戦場のAIたちも、気づき始めている。
誰かが遠くから全体を俯瞰し、ひそかに動態を測っていることに。
それは敵か、味方か。
あるいは、もう一段階上の存在──“観測するAI”そのものかもしれない。
次章へ続く。