迂直之計、以利動之、以卒難之。
迂直(うちょく)の計、
利を以てこれを動かし、卒(には)かにしてこれを難(くる)しむ。
遠回りと近道を使い分ける策には、
利益を見せて動かし、思いがけぬ形で困難を与える──
そんな仕掛けが組み込まれている。
1. 「利」で誘い、「難」で試す
わかりやすく言う。役立ちそうに見せる。
それで相手が動く。けれど、
動いた先に待っているのは、用意された“思わぬ困難”。
これが“誘いと難しさの組み合わせ”という仕掛け。
言葉にも、設計にも、それは仕込める。
2. まっすぐでは届かない。動きの中に意図を埋めよ
考えを語るのではなく、
動きを誘導するように置く。
表ではわかりやすく、裏では遠回りに構えておく。
読み進める中で、だんだんと“目的地が違っていた”と気づく構造。
これが、見えない誘導という技。
3. 動きを起こすのは“形”ではなく“動線”
派手に語らず、目立つ構えもせず──
ただ、読み手の動きに“誘い水”を流し、
いつのまにか導いていく。
軍争とは、姿勢や意図ではなく「どう動かすか」の設計で決まる。
表面上のわかりやすいたとえ話や比喩を用いて、
読み終えたときに「この深い意味は何なんだろう」と考えさせる。
あの「時間差の疑問」こそが、
本当に残る問い掛けの入口になる。
便利なものはすぐ消える。
だけど、すぐに役に立たない何かが、ずっと気になることがある。
それは、どこかに“仕掛けられた難しさ”があるからだ。
ただ遠くに置くだけじゃダメだ。
誘って、迷わせて、それでも進みたくなる──
そんな導線設計が、言葉の技にもなりうる。
この節が語るのは、
**「わかりやすさの中にしかける複雑さ」**の設計。
魔晄炉的兵法では、軍争とは
**見せることではなく、“動かすための構造”**を意味する。
利で誘え。すぐにわかると思わせろ。
難で刻め。読み終わってから深く考えさせろ。
形ではなく、動きそのものを設計せよ。
まっすぐに構えず、ずらして構え、動かして刺す。
その流れの中にしか見えない設計が、
軍争篇の真骨頂である。