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第16節 夫城を攻むるの法は,已むを得ざるにしてこれを為す(それ しろ を せむる の ほう は、やむ を えざる に して これ を なす)

📜 原文(漢字のみ)

夫城を攻むるの法は、不得已にしてこれを為す。

🪶 書き下し文(文語)

それ城を攻むるの法は、已むを得ざるにしてこれを為す。

💬 日本語訳(意訳)

城を攻めるという手段は、他に選択肢がない場合に限って行うべきだ。

♨ 魔晄炉的注解

1. 最終手段を“最初の一手”にしてはならない
真正面からぶつかる手段は、すべての可能性を試した後の最終選択肢である。
計略も遮断も効かない、すべてを失ってでも突破せねばならぬ状況でのみ選ぶべきもの。
それ以外の局面では、“正面突破”はただの短絡である。

2. 「引く技術」の裏にこそ戦略がある
戦う技術よりも、退く技術・見送る判断・ずらす構造こそが、生き残る力となる。
場面によってはあえて動かず、崩れを待つ。もしくは流れを別に移す。
焦りや怒りで選ぶ突破は、たいてい最悪の選択となる。

3. 壊して得るものに価値はあるか
破壊を選ぶ前に、その先に残るものを見よ。
城とは相手の構造だけでなく、自分の時間・精神・信用を削ってでも壊す行為。
それが本当に「得」なのか──問うてから動け。

✍ 作成者自論

真っ向勝負に出て勝ったとしても、手に入るのは「勝ったという事実」だけの場合がある。
相手の陣を突破できても、自分の体力・時間・信頼は擦り減る。
破壊の代償を予測せずに選んだ突破は、あとで思考を曇らせる。
目的を見失い、行動だけが先行する時──その刃は自分に向く。
攻めたい時こそ、攻める理由を3回問い直す。

🧭 その節のまとめ

この節が語るのは、「突破は最後に残された一手である」という冷徹な判断軸だ。
魔晄炉的兵法では、“戦え”ではなく“戦うな、ただし例外的に” を鉄則とする。
突破の衝動は、しばしば思考を狂わせる。
壊すことでしか通れぬ道があるとしても──
壊した先に残るものが、“自分”でなければ意味がない。

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