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第17節 將不勝其忿而蟻附之,殺士三分之一,而城不拔者,此攻之災也(しょう その いかり に たえずして あり の ごとく これ に つき、し の さんぶん の いち を ころし、しかも しろ ぬけざる は、これ せめ の わざわい なり)

📜 原文(漢字のみ)

將不勝其忿而蟻附之,殺士三分之一,而城不拔者,此攻之災也。

🪶 書き下し文(文語)

将、其の忿(いかり)に勝(た)えずして蟻のごとくこれに附き、士の三分の一を殺し、しかも城抜けざるは、これ攻めの災いなり。

💬 日本語訳(意訳)

将が怒りを抑えきれず、兵を蟻のように殺到させて三分の一を死なせても城を落とせない──これは、攻撃が招く大きな災いである。

♨ 魔晄炉的注解

1. 怒りによる行動は、戦略ではなく災害
感情に任せた指揮は判断を誤らせ、仲間を死地に追いやる。
怒りで動いた結果、成果も得られず、代償だけが積み重なる。
怒りを理由にした正当化こそ、最大の愚策である。

2. 「数で押す」ことは、思想を薄める行為
蟻のように群れさせ、数に任せて突破しようとする指揮は、“個”の尊厳と戦略性を失う設計。
思考を停止させ、全体で突っ込む戦術は、失敗すれば壊滅しか残らない。

3. 突破できなくても壊れる
戦えど進まず、押せど届かず。
それでも出した命令が止まらない──これが「抜けぬ城」の真の怖さ。
戦術の間違いよりも、「撤退できない指揮」の方が壊滅的である。

✍ 作成者自論

突破できなかったことよりも、突破できないとわかった瞬間に止められなかったことの方が、後に響く。
勢いと熱量で突っ込んでも、状況は変わらないどころか悪化することもある。
とくに「怒り」は自分にとって最も厄介なトリガーで、
理由と感情が混ざった時、人は自分の判断を過信する。
それを自覚できるか──それが生死の境目だ。

🧭 その節のまとめ

この節は、「怒りによる行動の破壊力と無意味さ」を冷徹に描いている。
魔晄炉的兵法では、感情による指揮系統の崩壊を最も警戒すべき災厄と定義する。
怒りの正義は幻想であり、数の暴走は統率ではない。
進むべき時と止まるべき時の見極めこそが、全体を守る知恵である。
火に突っ込むな。火を扱え。

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