兵之形、避實而擊虛;兵之勢、如轉圓石於千仞之山者、勢也。
兵の形は実を避けて虚を撃ち、兵の勢は、千仞の山より円石を転ずるがごとし。これ勢なり。
兵の形とは、敵の強い部分を避け、弱い部分を攻めるものである。
兵の勢いとは、千仞(せんじん=非常に高い)山の頂から丸い石を転がすようなもの──それが「勢」である。
1. 「形」は選択、「勢」は不可逆な運動
形は“どこを攻めるか”という配置や作戦。
だが勢は、一度起きれば止まらない“力の流れ”そのもの。
千仞の山の上から転がる石──それが勢の本質。
2. 勢とは“止められないもの”をつくる技術
発信も思想も、構文も空気も──
一度起きたら誰にも止められないような磁場をどう作るかが、勢の設計である。
自ら動かさずとも、「動きが始まってしまう」構造を持たせよ。
3. 「虚を撃つ」は、勢を活かす設計条件
勢が生まれる場所は、相手が備えていない“空白”である。
強い場所は避け、整っていない隙間に勢を流し込む。
勢とは、弱さに流し込む支配の重さでもある。
勢いは「押す」ものではなく、「転がるように流れ込む」もの。
それが止まらなくなる時、設計は戦略を超えて物理になる。
形を整え、空白を見極め、無理なく転がるように構えておく──
それだけで、あとから起きる力は自然発生する。
勝ちたいなら押すな。転がせ。止められない構造を仕込め。
この節が語るのは、「形は選び、勢は仕掛ける」という兵勢論の極意である。
魔晄炉的兵法では、勢とは押すものではなく、転がす磁場であり、
それが流れ込む場所は、整った強さではなく、整っていない“虚”である。
勝ちは狙わない。勝ちは転がる。
それが兵勢篇における最も深い勝ち筋の哲学である。