故善用兵者、避其鋒芒、而乘其隙也。
ゆえに兵をよく用うる者は、その鋒芒(ほうぼう)を避けて、その隙(げき)に乗ず。
だからこそ、兵を上手に用いる者は、敵の鋭さを避け、その隙をついて行動する。
1. 鋭さに立ち向かうのは、愚の骨頂
勢い・批判・注目・怒気──すべて“鋒芒”である。
それに正面から立ち向かえば、刃を受けることになる。
真正面に立つな。刃をずらして、隙を見よ。
2. 勝ちは「空白」にこそある
勝機とは、押し引きの間、判断の迷い、疲れ、緩み、油断──
つまり“隙”に生まれる。
そこに流れ込むように動けば、勝ちは衝突ではなく“浸透”として訪れる。
3. 指揮者は「空気と隙」の読解者である
構造を叩き壊すのではなく、相手の鋭さを封じ、自らは動かずして勝ち筋に乗る。
それが勢を操る者の技であり、「勝とうとしない勝ち」の本質でもある。
真正面からぶつかれば、同じ土俵に乗った時点で負け始める。
尖った刃は避けるもの。焦らず、相手の“ずれ”や“間”を待て。
勝つ者は、敵の手が狂う瞬間を逃さない。
構えて待ち、崩れてきた隙間に、静かに重さを滑らせる。
それが「真に強い者の動き方」である。
この節が教えるのは、「強さとは、ぶつからずして隙に沈む力」だということ。
魔晄炉的兵法では、真っ向勝負は最終手段。
まずは“避け”、そして“乗る”。
ぶつけるな、ずらせ。押すな、沈めよ。
勝ちとは、隙に生まれる構造である。